僕に法を授けてください


後頭部より少し下の、髪を削ぎ落としたあの部分。

僕はそこがお気に入りで、たまにそっと触ってみる。何の前触れもなく。
ざらりとして、最初少し身震いする。指先から一瞬で肩や頬や胸に伝わっていく、その振動。
でも二、三度指を動かすとすぐに慣れてきて、もう大丈夫と体が言い、僕はすっかり安心してしまう。
あなたはくすぐったいと言って身じろぎする。少し照れて笑いながら。ちっとも嫌そうじゃない声に、うっかり依存してしまいそうになる。

妹子は変態さんなのか

たまにあなたは僕に尋ねる。どうしてと問い返せば、そんな変な所を気に入っているから、と答えた。
上手い返しが思いつかなくて、そうかもしれませんねとどうでもよさそうに言うと、面白がって何度も「変態」と繰り返していた。

変態?
とんでもない。僕は全く健康的にあなたを愛している。
この思いはきっと誰よりも純粋で、真っ直ぐで、それ故に狂気じみているのだと思う。

僕がとても静かで穏やかな時、無性にそこが恋しくなって、手を伸ばしてしまうのだ。
あなたの罪は、僕に好きにさせておいていることなんですよ、といつか教えてやりたい。
だってあなたが僕の名をいとも簡単に呼ぶものだから、僕も空気を吸うようにあなたの名を呼んでしまう。
僕の舌が、歯が、口の中の肉が、何の疑問も抱かずに紡ぎ出すことのできてしまう唯一の名前。


あなたは言うべきなのだ。
私を呼ぶな。私に触れるな。
さもないと、きっとあなたはいつか僕に恐怖する。
向けられる好意を信じられなくて恐怖する。
ああ、あなたがただの、単なる「あなた」だったなら。
名前などない、何の変哲もない、「あなた」だったなら。
あなたの本当の名を知らないことを考えて狂うこともないのに。


僕は何日かぶりに、またそこに触る。
「変態」とからかってくれることを浅ましく期待しながら。
ひどくこざっぱりしてる、僕の好きな場所。


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