Don't be angry.baby. 彼の不機嫌な顔を、もうかれこれ一時間見ている。 「ねえ鬼男君。そろそろ機嫌直そうよ」 本日何度目になるかわからない俺の和平交渉にも、彼は一向に応じない。 腕を組んで、足も組んで、目を閉じて。少しそっぽを向いて眉間に深い皺を刻んでいる。 そんなにずっと眉をひそめていたら、跡がついて直らなくなってしまいそうだ。 少し尖らせている唇が子供みたいで、俺はクスリと笑いそうになるのを何度も堪えた。 「悪かったって言ってるじゃん。ちゃんと反省してるよ」 意図的に億劫そうな声を出してみると、彼はより一層目を深く閉じて眉を釣り上がらせた。 固く引き結ばれた口は意地でも言葉を発したくないらしい。しかし『全然反省してねぇだろ』という声が全身から滲み出ている。 残念ながらその通りだから反論のしようがない。 俺は喜ばせるのももちろん好きだが、困らせるのも大好きだ。 と言っても、彼のこういう時の怒った顔は大して怖くない。 「鬼男君」 もう一度呼びかけても、彼は微動だにしない。 いや、まぶたが少しだけ動いた。 まだまだ甘っちょろいな、と俺は口角を釣り上げた。目を閉じているから、彼には気付かれない。 ずっと怒っている状態を維持するのは正直辛いくせに、まったくもって頑固者だ。 それでもこの状況にちっともうんざりしていない自分にちょっと驚いている。 一時間も続いているのにも関わらず! ぎし、と椅子を軋ませて立ち上がる。彼は努めて無関心を装っている。 俺は横を向いている彼の頬に軽く触れて自分の方へ向かせた。 虚を突かれた彼は、思わず固く閉ざしていた瞼を開いた。 何か言わせる暇もなく、半開きの唇を塞ぐ。彼は声を失って硬直している。 ちゅ、と音を立てて唇を吸い上げて離し、眉を下げて、努めて色っぽく仕上げる。 「ごめんね。許して?」 ほら、もう真っ赤だ。 浅黒い肌から湯気でも立ちそうで、唇がさっきからぱくぱくと泳いでいる。 あっけない、もう許してるね。 してやったり、とほくそ笑み、逃げ出せないように今度は両手で頬を拘束する。 動揺で揺れてる目が、俺を見ざるを得なくて困っていた。 「はい、もう一回」 呪文を唱えるように甘やかに囁いて、俺はもう一度その幼い唇を味わった。 |