被虐性淫乱症


「気持ちいい?」

母親に質問する子どものような邪気のない顔でそんな事を尋ねるものだから、僕は閉じていた目をうっすらと開けた。
散々胸を弄くり倒されたので、開いた目から涙が滲んで片方だけ滑り落ちていった。
数拍置いたのち、「はい」と掠れた声で返事をする。頷くだけだと絶対に言い直しをさせられることを僕は知っている。
それを聞くと、彼は「そう」と無感動な声を出してまた行為に戻った。

腰を持ち上げられ、ずくりと突き入れられる。
抉られているのか満たされているのかよくわからないこの感覚のために、僕は今ここにいるのだ。不意にそう認識する。
この最初の一突きも、僕の好む場所を探している時の予測不可能な動きも、探し当てて執拗にそこを攻める律動も、全部好き。

「気持ちいい?」
再び彼がそう尋ねてきた。僕はぎりぎりのところで繋がれている意識の中で、かろうじて肯定する。
彼は潜めた声で
「気持ちいい時は気持ちいいって言わなきゃだめって言ったでしょう」
と言った。全く叱る気のない甘ったるい声で。
「だっ、て」
と言いつつ、僕の全身は歓喜していた。どうしてそんなに優しげに言うのだろうと不満にすら思った。もっと責めて欲しいのに。怒られたって構わない。
「ほら早く。今は?」
僕は目に涙をいっぱいためて
「きもち、いい」
と半ば投げやりに言った。言い終わる前に彼の唇で遮られた。
こういう彼の自分勝手さが、好き過ぎてどうしようもない。
「ねえ、こういうこと好き?」
激しく突かれながら、ちょっと楽しそうに彼は問う。僕はスパークしそうな頭で必死に反発してみた。
「嫌いじゃ、ない」
「嫌いじゃないか」
彼はにやりと笑って「じゃあ好きでもないんだね」と確認した。僕は本当に泣いてしまいそうになる。
そうなんでしょ、と再度確かめられ、僕は仕方なしに、ごく小さな声で
「好き」
と答えた。

「この淫乱」

目を歪めて侮蔑を演じた彼に貫かれ、僕はつむじから爪先まで全てを震わせて、恍惚に浸った。
僕は病気なのだ。
いかれているのだ。
つける薬などないのだ。
だからちょっとばかり可笑しくたって、恥ずべきことは何もない。
そうやって今夜も僕は自己を正当化する。





被虐性淫乱症…マゾヒストの差別的呼称


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