気の毒な人々


「地獄」


閻魔は静かにそう宣告した。
目の前に立つ髪の長い少女は、愕然として立ち尽くしている。
「どうして?」
震える声で問い詰めるように尋ねた。
「私が何で死んだかわかってるんでしょ?」
閻魔は答えない。
錯乱しかけている少女の様子に、鬼男は冷や汗をかいた。
「私、何も悪いことしてない。勉強だってちゃんとやってたし、部活も頑張ってた。第一、」
閻魔はなおも答えない。
しかし決して少女から目を反らさなかった。
静かな静かな焔の佇む、紅い瞳。
少女の表情に、さっと狂気が降りた。

「あんな酷いことされても我慢してきてたじゃない!」

少女が閻魔に突進した。
途端に控えていた獄卒鬼達が飛び出し、少女の細い体を取り押さえた。
屈強な男達に羽交い締めにされながら手足をばたつかせ、一重の少し小さな目から涙がぼろぼろと零れ落ちている。

「何であたしがあんな目にあうの?!何で殴られなくちゃいけないのよ?!誰も助けてくれなかった、誰も。知ってるんでしょ?ねえ!!」
少女の金切り声が響き渡る。
鬼の一人が閻魔にちら、と目線を送る。閻魔は僅かに首を横に振った。
「あいつらが死ねばよかったんだ!地獄に行くべきはあいつらでしょ?!人をこんな目に合わせて、生きてる価値なんてないじゃない。何で?何で?!どおしてよぉぉぉぉ」
少女の憤怒に満ちた顔を見つめながら、閻魔はぽつりと言った。

「ごめんね、自殺は大罪なんだよ」

うわああぁぁという獣じみた絶叫と共に、少女は鬼達に引きずられて地獄へと堕ちていった。


再び静まり返ると、鬼男はぎこちない声で尋ねた。
「大丈夫ですか」
閻魔が伏せられた目を閉じる。

「うん」

鬼男はそれを聞くと、ゆっくりと扉の方へ振り返った。

「次の方、どうぞ」



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