男だの女だの


どうせこの恋は叶わない ああ私が男の子だったなら


「何聴いてるの」

ヘッドホンを耳に押しつけながら背を丸めて部屋の隅にいたら、彼は僕の肩に手を添えた。
僕はとてもぞんざいに答える。
「下からの輸入ものです」
「俺にも聴かせて」
「駄目」
意地悪、と口を尖らせるけれど、僕からヘッドホンを奪うようなことはしない。ベッドの上に戻って、サイドテーブルの冷めた紅茶を啜っている。
足音と、衣擦れと、陶器の音で、わかる。


私が男の子だったなら
貴方の傍にいられるのに
一番近い友達になれるのに
貴方に通じるのに
貴方を幸せに出来るのに

要はこういう曲なのだ。
愛情が育めないのなら友情でいいと。

僕はこの歌手が好きだ。
真っ直ぐに歌う。無理なく歌う。そして謙虚で、潔い。

けれどただ一つだけこの曲に賛同できないことがあるのだ。
いや、否定ではなく、これは問いだ。

「鬼男君、音楽ばっかり聴いてないでさ、こっちおいでよ」


男になっても好きになってしまったら
一体貴女はどうするつもりなのですか


僕はヘッドホンを握りしめ、より一層背を丸めて奥歯を噛みしめると、喉が締まった。


ああ ああ

こんなに涙が出るのだから

きっと僕は女の子なんだろう。






倉橋ヨエコ「友達のうた」より

main
inserted by FC2 system