正しい年の越し方
※現代パロ・社会人閻魔×大学生鬼男・同居



ゆく年くる年を、初めて見た。

鬼男がそう言うと、閻魔は少し驚いて振り返った。

「見たことなかったの?」
「年越しは必ずアイドルのカウントダウンライブがついてたんで」
「えっ鬼男君って」
「見てるのは姉ですよ。僕が見るわけないじゃないですか」

だよねーとのんびりとした声で返すと、またテレビに向き直った。
「これ何の番組なんですか」
「なんか、全国の神社の様子流して、静かに年越ししましょーっていう」
「面白いんですか」
「面白いよ」

テレビから聞こえてくる鐘の音。寒空の中、身を寄せ合うようにして順番待ちをしている人の群れは、何故か少し滑稽に見えた。

「このナレーターの喋りいいよね。雰囲気出てる」
閻魔は一人楽しそうである。鬼男は改めてきちんと画面に向き直った。宵闇に佇む神社は、確かに心を落ち着かせる。
しばし沈黙し、テレビの音だけが部屋に響くと、テレビからではない鐘の音が聞こえてきた。

「鳴ってますね」
「ちっちゃいけど一応この近くにもあるからね」
「近所の人大変だろうな。寝れやしないだろうに」
「……君ってほんと」
「え?」
「いや、何でもなーい……」
閻魔が苦笑すると、テレビから歓声が聞こえた。閻魔がぱっと顔を上げる。

「あ、明けたね」
「え、あ、そうですね」

慌てて鬼男も顔を上げると、画面の中で若者達がまだ歓声を上げている。鬼男が首を傾げた。
「年が明けたのがそんなに嬉しいんですかね。何でこんなハイなんでしょうか」
「……君も若者なんだから彼らの気持ちわかってあげてよ」
「僕はそもそもこんな寒い中外に出たりしませんが」
「でも俺が行こうって駄々こねたら出るでしょ」

鬼男が一瞬言葉を失う。それを見た閻魔が吹き出した。

「嘘、図星?駄目だよそんな顔しちゃ、もろバレ」
あっはっはと高らかに笑う閻魔の首に、鬼男は手をかけて揺する。言うまでもなく顔は真っ赤である。
「図星じゃない!笑うな!」
「わかってるって。鬼男君俺のこと大好きだもんね」
「黙れ!」
「ちょ、やめ、絞まる絞まる」

もつれあったせいで体を支えていた手の力が抜け、閻魔は慌てて肘をついた。同時に鬼男もバランスを崩し、閻魔に覆いかぶさる格好になる。
閻魔が再びケラケラと笑った。

「何いい年してじゃれあってんのかね、俺ら」
「全くです」
ため息をついて体を起こそうとすると、閻魔の手が腰に回ってきた。鬼男が顔をしかめる。
「何ですかこの手は」
「ちゃんとこっち見てごらん」
低く深い声で囁かれ、閻魔の手の下にある肌がざわりと粟立った。少し躊躇してから言われるままに視線を合わせる。
閻魔が満足げに笑った。

「明けましておめでとう」
「……おめでとうございます」
「今年もよろしくね」
「……よろしくお願いします」
「よし」
閻魔は嬉しそうに笑い、ぐしゃぐしゃと鬼男の髪を掻き回した。不思議と欝陶しさはなく、鬼男はしばらく閻魔の好きにさせていた。

「さて、いい体勢だし」
「え?」
「姫始めでもする?」
鬼男はがくりと肩を落とした。
「新年早々何考えてんだ」
「鬼男君が正月をご家族とじゃなくて俺と過ごすことを選んでくれた記念」
「実家には明後日ちゃんと帰ります。だいたい姫始めするためにこっちに残ったわけじゃねぇ……!」
「え、違うの?」
「アンタ僕をどんな奴だと思ってるんだ……」
「ダメ?」
腹の立つほど邪気のない顔で迫られ、鬼男は顔を赤くしながら俯いた。
「ここでは嫌です」
「えっ、まさか神社で?さすがに神の御前はまずいよ」
「寝室でって意味だアホが!からかうのもいい加減にしろ!」



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