彼は酷く驚いていた。
眉を八の字にして目を大きく開いて、少しだけ開いた唇が震えていた。
「どうして……」
私は目を細めて小さく笑った。
「覚えててくれたんだね」
「忘れるかよ」
きっぱりと言われたが、私はさらに苦笑してしまう。彼の目が潤んで、言葉尻が危ういものだから。
「何だよ、何なんだよ閻魔大王って」
「そのまんまだよ」
自分が自然と、とても優しい笑みを浮かべている事が分かった。心の奥底からじわりと湧き上がってくる感情が、私の口元をほころばせる。

「言ったろ、必ず会えるって」

彼は玉座へ走り寄り、思いきり腕を伸ばして私を抱きしめた。
「訳わかんねぇ」
彼が大きく鼻をすすった。
「全然訳わかんねーよ」
私は玉座に置いていた手をゆっくりと彼の背に回した。
「やっと会えた……!」
絞り出すような彼の声に、私は「うん」と頷いた。
夢のようだった。彼から伝わる体温で自分の体にまで熱が宿るようだった。
この日を待ちわびた。私にしてみれば人間の寿命など大した年月ではないのに、途方もない時間を待ち続けるような気がしていた。
こんなにも早く彼と再会したことを本来は悲しまねばならないはずだった。
それでも今この腕の中にいる存在が愛しくてたまらない。
体の欠けていた部分が少しずつ埋まっていく。満たされるとはこういうことなのだと、彼は私に教えてくれた。否、思い出させてくれたのだろうか。
何より耳元で聞こえる彼の激しい嗚咽が私を幸福にする。
私は、誰かに愛されている。

「貴央君、ちょっと離して。顔が良く見たいんだ」
「嫌だ」
鼻声でそう拒絶し、どこへも逃がさないとばかりに彼は一層腕の力を強めた。私は嬉しくて、笑みが収まらない。
「お願い。顔を見せて」
彼はようやく、ゆっくりと私から体を剥がした。
「髪、黒くしたんだね」
くすんだ金色だったそれを目を細めて見上げると、彼は涙を乱暴に拭いながら
「金髪でサラリーマンにはなれねぇよ」
と言った。私は彼の黒いスーツに視線を移して納得する。
「そうか、サラリーマンなのか。今いくつ?」
「24」
「そっか」
もう一度彼の頭から体へと視線を流した。
「少し背が伸びたね」
「……うん」
「俺追い越されちゃったかな」
「さっきから何なんだよ、親戚のおっさんか」
照れくさそうにして眉を吊り上げた彼を見て、私は声を上げて笑ってしまった。

「大王、審判を」
泰山がやんわりと切り出した。
泰山は何も間違っていない。いつまでも再会に浸っているわけにはいかないのだ。
それでも私は苦しいような、困惑したような表情を隠せなかった。
彼が全く同じ顔をして私に詰め寄った。
「そうだ、……俺どっちなんだ?」
天国と地獄。どちらかに行かなくてはならないなら私とそう長くはいられないのだとその目は気付いていた。
不安そうな顔に耐えられず、私は目を伏せた。すぐには答えられず黙っていると、痺れを切らした彼が身を乗り出す。
「オッサン」

「どちらでもないんだ」

これには彼だけでなく、隣で静かに見守っていた泰山も目を丸くした。
「何だよそれ」
彼の主張は尤もだった。しかし私は冷静な目で彼を見据える。
「これが俺の審判なんだ」
「そんなことあるはずが……!」
動揺する泰山に彼の書類を渡した。驚愕がさらに濃くなったのがわかる。プロフィールや経歴はきちんと書かれているが、肝心の審判結果がない。
「ありえないわけじゃない。たまにあるんだ、こういうの」
腑に落ちない泰山は
「ならば、大王ご自身で審判を」
と張り詰めた声を上げた。
私は首を横に振る。
「どちらでもない」
私の目に映るのは、呆然と言葉を失っている彼の姿だった。

どちらにも送れないため、異例の処置だが彼を私の私室に招くことにした。
一言も口にしない彼は死人のような冷えきった顔をしていた。ソファに座るように促すと、そのまま沈み込んでしまいそうなほど深く腰を下ろした。
「貴央君」
見兼ねて声をかけても、聞こえていないかのように微動だにしない。
「大丈夫だよ。すぐに決めてあげるから」
「地獄には行きたくないけど、天国に行く資格もないんだ、俺」
ようやく呟いたその言葉に、私は眉を寄せて首を傾げた。
「だから、『どっちでもない』で合ってるのかもしれない」
「……どういうこと?」
膝を握りしめた手の甲に、ぱたりと音を立てて涙が落ちた。
「親父と同じ交差点で死んだんだ」
その言葉で、私はすぐに合点がいった。
「夜中に、同じ交差点で同じようにトラックに跳ねられた」
ぶるぶる震えている彼の手の甲に私は無意識のうちに手を置いていた。乗せた私の手に、立て続けに涙がばたばたと落ちる。
今すぐ彼を抱きしめたかった。慰めてやりたかった。
出来なかった。
そうすべきではないと、私の中のどこかが知っていたから。
だから私はひたすらにその手を握り続けた。
「母さんが、壊れたら俺のせいだ」
呼吸が上手く出来ず、途切れ途切れに彼は言葉を吐き出した。
「親父をあんな風に亡くしたのに、俺を、ここまで育てて、一人で、なのに、俺は」
私は膝を固く握りしめていた彼の手をそっと取り、自身の手と繋いだ。そして静かに立ち上がり、潜めた声で言った。
「ついておいで」
ゆっくりと顔を上げた彼は、涙で顔を濡らしながら困惑した表情で私を見ていた。しかしやがて緩慢に立ち上がった。
部屋を出て廊下を歩き、奥まったところにある黒い扉の前まで来た。扉の取っ手を覆っていた埃を軽く払い、ぎいぎいと音を立てるそれを開けた。
そこはとても狭い部屋で、暗闇の中に巨大な水瓶があるだけだった。彼はほんのりと光を蓄えているその水瓶を少し眩しそうに見つめている。
私はそこへ片手をかざした。すると青白い光が生まれ、水面の中心から波紋が広がり、さあっと明るくなる。
「わっ……」
彼は咄嗟に腕で強い光から目を守った。私はしばらくそうさせていた。
だんだんと閃光が落ち着いてきて、私は彼に「もういいよ」と言った。
彼は腕を下げて水面に目を向けた。その光景が目に映った瞬間、彼は水瓶に駆け寄っていた。
「母さん……!」
水面には、仏壇の前で力なく頭を垂れている彼の母親の背中が映っていた。その細い肩は小刻みに震えていた。
「母さん……」
彼は水瓶の縁に縋りついて項垂れた。私はそっと彼の肩に手を置く。
「よく見ていてごらん」
私がそう言うと、水面に再び波紋が生まれた。すると今度は病院で働いている看護師姿の母親が映し出された。患者に笑いかけ、きびきびとした動きを見せる母を見て、彼の涙が一瞬止まった。
「辛くないわけはない」
私は彼のもう一方の肩にも手を置いた。彼の頬に顔を寄せ、同じ所から水面を見下ろす。
「でも、この人は大丈夫だよ、きっと」
彼は唸りのような声を上げた。口を大きく開け、喉の奥の奥から絞り出されるような苦悶に満ちた泣き声を。それでもその声は酷くか細くて、私はその声をよく知っていた。
かつて自分が味わった、どうすることもできない時、やり場のない想いを逃がすための泣き声だった。

この水瓶を、『浄玻璃の鏡』という。
以前は裁判の際に死者の生前の行いを映し出し、鬼達にそれを悪しざまに罵らせ、死者の悪行を責め立てるのに使っていた。
いつしか私はこれをこの部屋にしまいこんだ。必要のないものとして。
やろうと思えばこれは何でも映し出すことが出来る。けれどそんなものは、あってはならないものだと私は思っている。それでも彼にこれを見せてやりたかった。少しでも、気休めでも救いになればと。
しかし、単なる彼への善意でこれを見せたわけではない。
この鏡は本来死者の生前の行いしか映し出してはならない。そのためそれ以外を映し見ようとすれば、死者はその強すぎる光に目を潰される。
しかしそれは『死者が人間の魂であれば』の話である。
少しずつ昂りが収まってきた彼の瞳は、未だ涙を流しながらも水面を見つめている。
私は自分の中に生まれたある仮説に一人震えていた。


彼を再び私室に連れてくると、スーツ姿が動きづらそうだったし、気持ちを落ち着かせたかったというのもあるので、とりあえず入浴を勧めた。
彼は素直に従い、私はソファに一人残った。
心臓がどくどくと激しく動き、全身が脈動しているような気がして、鎖骨の辺りが締め付けられて気持ち悪い。こんな感覚は、本当に何百年振りだろうか。
こんなに動揺することは稀だ。知りたいが、知ってはいけないような気がして決断が出来ない。
彼が浴室から出てくるまでの時間が永遠に感じられた。しかし、戻ってきて欲しくないとも思った。
私の手でその『扉』を開けてしまうのが、怖かったのだ。
しかし彼は当然浴室から出てきた。私が用意した浴衣を身に付けて。
「着替え、ありがとう」
覇気のない声で彼は言った。私の指先は痺れている。
「座って。隣に」
私はきっと怯えた子供のような顔で彼に言ったのだと思う。彼は私から拳二つ分ほど間を空けてソファに腰を下ろした。
ややあってから、彼はおずおずと口を開いた。私の様子を伺っている。
「……どうしたの」
「…………いいや」
彼から目線を外すと、彼は所在なさげに身じろぎした。
しばらく重い沈黙にのしかかられると、彼がつっかえながら無理矢理再度口を開いた。
「たくさん霊が見えて、話して、たまにとりつかれそうになって。そういう毎日を繰り返してるとさ」

自分がもしかしたら人間じゃないんじゃないかって、時々思ったんだ。

彼はそう言った。
「だってそうじゃん。あんなに幽霊とか、変なものと近いとさ。自分とあいつらが大して変わらないんじゃないかって思うようになっちゃって」
彼は口ごもり、目を閉じて俯いた。
「俺がどっちにも行けないのって、そういうことなのかな」
私の手は、無意識にゆっくりと上がっていた。
先ほどとは打って変わって、私の胸はとても落ち着いていた。夕凪のようだった。
私の人差し指と中指が彼の目の前に現れ、彼は驚いて目を開いていた。
「なら、確かめてみよう」
私は低くそう言った。それでもその声は震えていた。
指先に少しずつ光が集まっていく。ぬるい光。温かい水の中にいるような。
風もないのに、私の指先を中心にして服が、髪が舞い上がる。
彼は焦点の合わない目で、口を少しだけ開けたまま黙っていた。私の放つ光は、彼の意識を徐々に絡め取っていく。
私は目を閉じ、彼の中から『それ』を探した。
手に入れることをずっと拒んでいた、最も欲しかったもの。

思考の闇の奥の奥から飛んできた眩い金色の光が、突如として私を差し貫いた。瞬間、私は弾かれたように目を見開く。
彼から強い風が発生し、私を吹き飛ばさんとした。しかし、彼にかざした二本の指は動かさない。
ごう、という音がして、もう一度彼から風が生まれた。そして彼の、瞳の色を吹き飛ばしていった。

ああ

私はだらしのない、声とも言えない情けない声を上げた。
そこには黒髪の中に生えた、私の恋焦がれた二本の短い角と、遠い昔に見た金色の目があった。かつて私の血で赤色に染めてしまった、金色の目。
『彼』は私を見ていた。ゆるくなった風の中で。
そしてほんの一瞬、私に笑いかけたような気がした。
それは私の願望で、錯覚で、妄想だったのかもしれない。いいや、恐らくそうだろう。
けれど『彼』の目は確かに私を映していた。
『彼』はそこにいた。

風が止んだ。
彼は強く目を閉じ、何かを振り切るように首を横に振ると、ゆっくりと目を開いた。
「何だ、今の……」
黒髪の中の角は幻影ではなくそのままで、開かれたその目は、やはり金色だった。
「うわっ!」
彼に飛びつくようにしてその体をかき抱いた。私は体を震わせ、激しく泣いた。
冥界に『彼』が落ちてきたあの日、彼を手懐けるために『彼』の鬼としての強すぎる血を自らの血によって『彼』の魂の奥深くに封じ込めた。
長い間奥底に幽閉されていた鬼の血はかえって強固に根付き、一度の転生では浄化されないほどのものになってしまっていた。そして彼―茨木貴央の魂を、限りなく人間に近いが、そうでないものへ変えていた。
そうとも、私が彼と別れた時に消したのは、私の血だけだった。
それによって『彼』の記憶は完全に消え去ったが、『彼』の存在だけは最初から彼の中にあったのだ。
下界ではなりを潜めていたそれは、冥界の空気に触れ、そして私に探り当てられたことにより蘇った。
『彼』はもうどこにもいやしない。
しかし、最後の力で確かに私の前に現れた。

貴央君を愛している。
それでもやはり、『彼』を激しく愛していたのだ。
いつからか苦しくて名前を口にすることも出来なくなった、私の愛しい、優しい鬼の少年を。

子どものように泣きじゃくる私を、彼は困惑しながらも黙って抱きしめていた。
そして何故か、彼もまた泣いていたのだった。



鏡に映った自分の姿を見た後、貴央君は少し驚き、しかしすぐに複雑そうな表情をして俯いてしまった。
「どうしたの」
隣に立った私は貴央君の顔を横から覗き込む。
「本当は、この目と角に驚くべきなんだろうな」
その言葉の意図が掴めず、私は眉を寄せて黙った。
「理由はわからないけど、俺、これが何なのか分かる」
私ははっと息を飲む。気がつくと、貴央君は酷く哀しい目をして私を見ていた。
「さっき泣いたのも、その人のためでしょ?」
いつの間にか私の手を握っていた、その手は震えていた。
心の奥底から暖かさが湧きあがってくるのが分かった。それはとても気持ちのいいものだった。
私は、それの名前を知っている。
臆病なその背中を、私は抱きしめた。さっきとはまるで違う包み込むような優しい力で。
貴央君は私の胸を押し返した。
「嫌だ。俺はその人じゃない。代わりになんかしないで」
「貴央君」
私があやすように名前を呼ぶと、涙声で私を激しく拒んだ。
「俺はその人のせいでアンタを好きになったんじゃない。俺がアンタを好きになったんだ。俺の心は、俺だけのものだ」
それを聞いて、私は自然と微笑んでいた。首筋から香る、貴央君の匂いを確かめながら。
「わかってるよ」
私は腕を解き、貴央君の肩に手を置いて真正面からその顔を捉えた。
「そんな泣きそうな顔しないで」
貴央君は唇をひくひくとさせ、鼻をすすった。そして、恐らく最も言いたくなかったであろう言葉を口にした。言う前からもう罪悪感に支配された顔をしていた。
「その人は、もういないんでしょう?」
私の心は凪いでいた。だから静かに、確信を持って頷けた。
そしてずっと伝えたかった事を、今ようやく言うことが出来る。
「貴央君」
彼はびくりとした。彼にはわかっていたのだ、私が何を言おうとしているのか。それでも僅かに怯えずにはいられなかったのだ。
「好きだよ」
彼の唇に隙間が出来た。私は少しずつ彼の顔との距離を埋めていく。
「愛してる」
そして目を閉じ、未だ痺れている彼の唇に自分のそれを重ねた。
初めて味わう彼の唇に私の全身が歓喜していた。この胸の中は今、計り知れないほどの愛しさで満たされている。
唇が離れると、堪えていた彼の涙が頬を伝って落ちていった。
「駄目だよ、無理。信じられない」
私は苦笑した。
「参ったな。……じゃあたくさん時間をかけて信じてもらうことにするよ」
「え?」
戸惑っている彼の目をもう一度真っ直ぐ見据えた。

「貴央君、俺の秘書になってくれないか」




「大王」
その日最後の審判を終え、執務室に引き上げてお茶を飲んでいると、ずっと黙っていた泰山がようやく喋った。
「何だい」
「彼はその、これからどうなるのですか」
「どうって、見たままさ。時が来れば輪廻に還っていく」
泰山が再び黙りこんだので、私は苦笑した。
「さすがに二度目の転生に耐えられる魂などないよ。次に生まれる時はただの人間になっている」
「しかし、何故よりによって秘書になど」
私は泰山の遠回しな非難を汲み取り、溜め息をついた。
「深い意味はないさ。彼が天国にも地獄にも行けないのは変わらないし、かといって野放しにするわけにもいかない」
私は白々しく肩をすくめた。
「何より閻魔大王の秘書の席はずっと空いていたんだ。いい人材が来たから、とっ捕まえてそこに置いただけの話だよ」
「……大王」
泰山が呆れているのがわかり、私はとうとう笑い出した。
そこへ扉の開く音が割り込み、官服に身を包んだ貴央君が顔を出した。
鬼の角、黒い髪、金の瞳、そして閻魔庁の鬼の官服。泰山は呆然とその姿を見つめていた。
「おお、似合うじゃないか」
私は笑みを浮かべた。
「……オッサン」
「こら、オッサンじゃないだろ。これからは大王と呼びなさいって言ったじゃないか。ほら呼んでごらん」
「……………………大王」
「何でそんな嫌そうなの」
私が吹き出すと、彼は「だって何か変な感じする」と眉間にしわを寄せた。
「それより、約束だろ。早くしろよ」
「わかったよ」
やれやれ、とばかりに私は椅子から立ち上がった。彼はというとさっさと扉を閉めて引っ込んでしまった。残っていたお茶を飲み干して湯呑みを空にしてしまうと、泰山を振り返った。
「秘書になる代わりに、鬼男君の話をする約束なんだ」
泰山は目を見開いた。
「どうして」
「知らんよ。話せ話せとうるさいんだ」
私は彼の出て行った扉を眺めた。かつかつという足音が遠ざかっていく。私の私室に向かっている彼の足。
「でも、必要なことなのかもしれない」
そう言い残して、私は執務室を後にした。


私はずっと待っていた。
そして愛しさを手に入れた。
いつか彼が還っていくその瞬間でさえも、私はきっと幸福でいるだろう。
かつて『彼』が憎んだ、誰かを愛してはいけない閻魔大王はもういない。
私は許したのだ。私自身を。


彼を愛している。


End.











<後記>

もっと早くに完結させるつもりだったし、こんなに長くなる予定もなかったWAYもようやく終わりを迎えることが出来ました。今思うと信じられませんが、当初は20話くらいで終わっちゃう話だったのです。
しかし私自身とても思い入れの強い話だったので妥協することなくとことん書きこみたかったし、何より多くの方に好きになっていただいた話だったので、自身では最長の28話という長編にまとめることができました。
話の後にだらだらと語るのはすなわち話の中で言いたいことを言い切れなかったことだと思っているので普段はこういうの書かないんですが、今回はちょっと例外にさせていただきます。
これが出来たそもそものきっかけは、閻鬼にはまりたてのころにdorikoさんのミク曲「夕日坂」を聴いたことにあります。
これを聴いていて、転生した鬼男君と閻魔が夕日をバックに坂の上に立っている絵が何故か唐突に浮かんだのです。
この頃いくつかの天国サイトさんを回っていて、転生ネタはあちこちで見ていました。当然それに影響されて自分も転生ネタであれこれ妄想していたのですが、「でも鬼男君が転生したところで、この二人ずっと一緒にはいられないよな」という考えに至って止まってしまいます。
そんな時に夕日坂といういわゆる別れの曲に出会ったので、どんどん膨らんでいったんだろうなと思います。

タイトルが「Who.Are.You」なのは「転生」というテーマを追求した結果です。
貴央君は、見た目は当然のことながら他にもあちこち鬼男君とそっくりなので、閻魔は一応貴央君だと認識していながらも常に「彼は貴央君なのか鬼男君なのか」という疑問「Who is he?」を抱えています。
そして貴央君は貴央君で閻魔が何者なのかちっともわからないのに(何か今まで見てきた霊とは違うっぽいので)あっちはどうやら自分を知っているらしい。そのせいで閻魔の正体が余計に気になって彼もまた常に「Who is he?」を抱える羽目になります。
要するにこれは閻魔と貴央君が互いに「Who are you?」と尋ね合う話なのです。
そして最終的に閻魔が冥界というフィールドで貴央君を愛し共に歩んでいくという道もしくは方法(way)を選択します。
結果的に閻魔が「人を愛することを思い出す、あるいは自分に許す」話になってしまいましたが……。後は単純に時を越えた恋が好きでそれを書きたかっただけです。

鬼男君を出そうか最後の最後まで悩みました。死んだ貴央君が冥界に行って閻魔に会った途端、鬼男君としての記憶を取り戻して「貴央君でありながらも鬼男君」という状態になるというトンデモ設定を考えたり、それはさすがにご都合主義過ぎるので中身は貴央君でもせめて見た目は鬼男君(金髪金目褐色肌)にしようかとも思いましたが、「鬼の身体に変異はしたけれど、その他はすべて貴央君のまま」という形に落ち着きました。
死んだ(輪廻に還った)らもう二度と会えないんだという、私達にとっては当然のことを閻魔も味わうべきだと思ったので。

途中に出てくる上宮や曽良君に深い意味はありません。単に遊び要素としてゲスト出演させただけなので、転生どうのの辻褄合わせをするつもりはありません。閻魔が話の都合上どうしてもしばらく消えるのでその間貴央君一人で話を繋ぐことが出来なかったから、だなんて口が裂けても言えません。
そして今回出てきた浄玻璃の鏡ですが、本来は水鏡ではなく水晶で出来ていますし、死者の生前の行い見る以外には基本使えないのでここの設定を信じないようにお願いします。

確かこれの構想が出来たのが2008年8月。完結が2011年4月なので完成まで3年弱かかっていることになりますね。やれやれ我ながらだらだらやってきたものだ。
しかしこれを書いていたおかげで天国がもっと好きになったし、多くの人にうちの小説を気に入っていただくことが出来ました。読んでくださり、これの更新を待ち続けてくださった皆様には本当に感謝しています。この場を借りてお礼申し上げます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

―Super Special Thanks―
・夕日坂(初音ミク)
・letter song(初音ミク)
・Last Night,Good Night(初音ミク)
・飴玉の唄(BUMP OF CHICKEN)
・愛をこめて花束を(Superfly)
・初めての恋が終わる時(初音ミク)
・sign(初音ミク/ルシュカVer.)

・構想段階で一緒に妄想、もとい考えてくれたメジ(あの真夏の天国語り合宿がなければWAYは絶対に生まれてなかった)
・きちんと読んで、なおかつ早く更新しろと一番近くでせっついてくれたまこたそ
・感想をくれ、多くのWAYイラストをめぐんでくれ、最も切に更新を待っていてくれた(と勝手に私が思っている)相方まつさん

浅葱ちかこ

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