「おいで」

手首の拘束がぱらりと解ける。呪符がひらりと舞って塵と消えると、斬鬼の両腕が力なく床に落ちた。
「おいでって言ったんだよ」
閻魔が繰り返すと、斬鬼は生気の失せた目をしながらゆっくりと上体を起こした。
四肢の術も一緒に解けたらしく、動きは恐ろしく緩慢だがちゃんと手足は動いている。
「どうすればいいかわかる?」
斬鬼の顎に指をやりこちらを向かせる。斬鬼の視線が少しだけ泳いだ。ため息をついて、閻魔は自分の下肢の前をくつろげた。斬鬼はぼんやりと目の前のものを見ている。
閻魔は斬鬼の胸に人差し指を乗せた。そこにだけ一瞬あの巻物の文字が浮かび上がり、すぐに消えた。斬鬼の肩が電気でも走ったかのように揺れる。
「質問を変えようか。どうしたい?」
閻魔の問いが呪文のように体に流れ込むと、内側から熱い大きな何かがこみ上げてきた。
何かにとり憑かれたように、斬鬼は跪いて閻魔のそれを両手で包んだ。
「それで?」
さらに閻魔に問われ、斬鬼は数秒逡巡した後それにかぶりついた。閻魔は顔色一つ変えない。
「いい子」
髪を撫でてやると、遠慮がちだった斬鬼はむしゃぶりつくように浅ましく啜り始めた。閻魔はおもむろに髪の中の小さな角をつまむ。
咥えたまま驚いてくぐもった声を上げる。縮められて以来、どうやらそこが露骨に弱くなっているようだ。声を上げた拍子に少し歯を立ててしまった。
「大丈夫だよ、それくらいなら」
続けて、と斬鬼を促し再開させるが、角を弄る手は休めない。その度に斬鬼は歯を立ててしまい、背中の皮膚は波打つ。

「でも噛んだらこの角、根元から引き千切るよ」

ぎくりと怯えた目をした斬鬼は歯を引っ込め、今度は舌を使い始めた。唇で挟みながら、根元から先端までねとりと舐め上げていく。
赤い顔をしながら目に涙をためて懸命に奉仕する姿はなかなかに扇情的である。それがさっきまでの口汚く自分を罵っていた威勢のいい鬼と同じ生き物だと思うと、なおさら胸のそこがぞくりと唸った。
猫が水を舌で掬って飲むような、小さな水音がひっきりなしに響き渡る。ざらついた、それでいてよく動く舌は本当に猫のようだった。
それを無感動な目で見下ろしていた閻魔は、ふと思いついて斬鬼が根元近くまで咥えこんだのを見て唐突に斬鬼の後頭部を掴んで引き寄せた。
「かふっ……ん!」
虚を突かれた斬鬼は何が起こったかわからず目を白黒させた。思い切り引き寄せられたのである。当然先端が斬鬼の喉を突く。
たまらず口から離し、口と首元を抑えて激しく咳き込んだ。口から精液と交じり合った唾液が流れ落ちる。
余計に涙目になった斬鬼はゆっくりと閻魔を見上げ弱々しく睨んだ。閻魔がごめんね、と言って微笑む。
「ちょっとどうなるか見てみたくなって。もうしないよ」
額を撫でてやると斬鬼が小さくうなずいたように見えた。そして再度それに舌を伸ばす。我を忘れて狂ったように貪る斬鬼を、閻魔は満足げに見下ろしている。

「もっと強く啜ってごらん」
顎の線を撫ぜて導くと、体を少し震わせて言われるがままにじゅう、と音を立てて何度も吸い上げる。
酒でも飲んでいるように、唾液を飲み込むたびに目の色のとろみが増していった。
とうとう焦り一つ見せないまま、閻魔は斬鬼の口から喉にかけてに欲を吐き出した。突然流れ込んできたどろりと苦い液体に斬鬼は思わず口を開いてしまう。
「駄目だよ、零すのは」
飲みきれず吐き出しそうになった斬鬼の口を閻魔の手が塞ぐ。苦しそうに喉を鳴らしながら必死に口の中のものを飲み下し、塞いでいる閻魔の手にべったりとついた白濁も拙い舌遣いでどうにか舐めとった。
「よくできました」
半分開いた斬鬼の唇にちゅっと音を立てて触れるだけの口付けをする。



「さぁ、最後行こうか」



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