閻魔の指が、先ほど弄繰り回したその場所に触れる。 蜜がまだたっぷりと残っていて、人差し指の第一関節まで入れると中がびくびくと脈打っているのがよくわかった。 「欲しい?」 閻魔が問うと斬鬼の顎がかくんと動く。閻魔が小さく笑った。 「素直でよろしい」 斬鬼の額に口付けると、指を抜いて自分のものをそこにあてがった。 「はあ、ああぁ……!」 今しがた味わったものとは桁違いの質量に斬鬼は呻く。 喉を絞められるような感覚に襲われるも、斬鬼の体はずぶずぶと音を立てて侵入者を受け入れていく。 本来なら他人を受け入れる場所ではないはずなのに、こうもあっさりことが進むのはこの蜜のせいか体に沈んだ文字のせいか。 浅い呼吸を繰り返すたびに息が絡まるような感覚を抱く。 体を貫かれる痛みは本来なら尋常ではないはずだが、今の斬鬼の体はそれら全てを瞬時に快感へと変換していた。 あと少しで全て入る、というところでどうにも我慢ができなくなり、自由になったのをいいことに、斬鬼の手が閻魔の首から肩にかけてにするりと絡まった。 その姿に目を留めた閻魔はさっきより性急な動きで腰を動かし、あっという間に全部を埋め込んだ。 斬鬼の口から「ひっ」という引きつった声が上がって閻魔の着物を握り締める。 「今なら穴だらけに出来るかもよ」 この体を、と続け、意地の悪い笑みを浮かべて斬鬼を見下ろす。 組み敷かれた斬鬼はぼんやりと目を開けたままふるふると首を振り、小さく開いた口から蚊の鳴くような掠れた声を出した。 「あつい」 快楽に溺れたその鬼は驚くほど従順になっていた。 「すごいね」 閻魔はにやりと笑い、腰を引いて強く打ち付けた。ぐちゅりという粘ついた音が冷たい塔に響きわたる。 「あっあっ、あ、あ!」 斬鬼の手が縋るものを探して閻魔の背中に僅かに爪を立てた。それを見て閻魔が軽口を叩く。 「本当に串刺しにするつもりかい」 爪を伸ばす力などかけらも残っていないことをわかっていながらこの言葉である。 反論と呪いの言葉の代わりに斬鬼の口から出てくるのは熱をたっぷり含んだ母音だけ。舌などちっとも回らない。 激しい律動のたびに、斬鬼の奥は閻魔を締め上げる。出て行かないで、もっときてと主張しているかのようだ。 弱いところを突かれるたびに快感が激流のように体の芯を貫き、ぞわぞわと波を打ちながら全身が小さく震えていた。 「あぅ、う、ああっ」 発狂しそうなほどの酷い快楽を持て余し、いよいよ意識が怪しくなってきた。 閻魔は斬鬼の腰を抑えていた手を片方外し、開きっぱなしの斬鬼の口の中に指を一本突っ込んだ。 「よく聞け斬鬼。この指がお前を支配する」 指が舌を掬い上げると、節くれだった細い指に舌が絡まってきた。 「この指の指し示す方へ行き、この指の付ける傷を肯定するのだ」 目から涙をばらばらと零しながら、赤子のように指を吸ったり舐めたりを繰り返している。 「お前の世界の唯一絶対の王は私となり、他の主の創造は決して許されない」 言いながら、閻魔は平然と何度も斬鬼を貫いている。正気でいたなら耳を塞ぎたくなるような卑猥な水音が短い間隔で跳ねる。 唯一絶対の王 それは斬鬼の頭の奥で甘やかに響いた。 閻魔は指を引き抜くと急に斬鬼の体を抱きすくめ、顎を持ち上げて散々犯したその口に舌を滑り込ませた。 それがあまりに繊細で悲しく痛い口付けだったので、斬鬼のぼやけていた視界が一瞬鮮やかに色を取り戻す。 『決して忘れるな お前を支配し導く者の全てを』 閻魔の背にきつく回された手が、服越しにがりっと爪を立てた。 自我などとうに 跡形も無い 最後にひときわ激しく突くと、閻魔が斬鬼の中で弾け、斬鬼も押さえ込んでいた欲を全て吐き出し同時に意識も手放した。 頭の中を埋め尽くす白、白、白。どろりと流れ込んできたそれは不思議と不快ではなかった。 目を閉じた斬鬼。絡み付いていた腕の力が抜け、無骨な石の床に落ちていく。 浮かんでいた涙のせいで四方に光を放っていた金色の瞳が、閉じられた今でも目の奥から消えない。 汗ばんだ褐色の肌。いまだ散らばる白い花びら。鍛えられてありながらも細い造りであるその体を閻魔は改めて眺めている。 痙攣していた肩も膝も、今は鳴りを潜めていた。 閉じられた二つのまぶたに唇を落とすと、閻魔と斬鬼の体が霧に包まれどこからとも無く吹いた風に消し去られた。 残された塔には元のひやりとした沈黙が佇んでいる。 |