閻魔の手が下肢へと伸びる。
斬鬼は今度こそ飛び起きそうになった。もっとも、飛び起きる力などどこにもないのだが。
「よせっ、何考えてんだ……!」
斬鬼の訴えを黙殺し、閻魔の指は斬鬼の下腹部に降りる。すると下半身を覆っていた着物が端から霧となって消えていった。
斬鬼は息を飲んだ。一糸纏わぬ姿となった、均整のとれた斬鬼の褐色の肌をつい、と辿ると、すでに頭をもたげているそれの先端を軽く指で潰す。思わず目を強く閉じて衝撃に耐えた。喉から飛び出すかと思った情けない声は、実際には音にならずに天井を舞った。
欲望の根源であるそこに直接触れられ、頭の中で火花が散りそうである。
「苦しそうだね」
静かにそう言うと、全体を握りこみ軽く扱いた。すると先走りが生まれ、閻魔の指を湿らせる。半開きの口の端からは唾液が伝う。
「よせ、嫌だ……っやめろ」
「嫌」
無情な拒絶と共に、閻魔は指を何度も往復させて這わせる。その間白い先走りは引っ切り無しに流れ続け、斬鬼はそれから目を背けもう一度目を強く閉じた。閻魔が先端に軽く爪を立てる。驚いて目を見開くと、涙が一筋金の瞳から零れ落ちた。それを見て閻魔は子供が面白そうな玩具を見つけたようににやりと笑った。
「鬼の目にも涙ってやつ?」
「殺す……」
地鳴りのような声で相手を呪うと、体中の力を手首に集中させ、どうにかして呪符から逃れようともがく。
「もう諦めなよ。逃げられやしないんだから」
閻魔は零れ落ちた涙をぬぐってやる。斬鬼は歯をぎりぎりと軋ませた。
「俺は、……絶対てめえなんぞに屈してなんかやらねぇ」
「息絶え絶えでよく言うね」
「それから訂正しろ、逃げたいんじゃねぇ。てめえのその顔を、穴だらけにしてやりたいだけだ」
呪符の効果で長く伸びるはずの爪はもちろん封じられている。しかし体中から噴出す殺気だけで人一人殺せそうな勢いだった。
「おお怖」
含み笑い混じりにそう言うと、おもむろに体を後退させた。そして両膝を掴んで左右に広げさせる。
自分の格好を目の当たりにし、斬鬼は泡を食ったように口をぱくぱくとさせた。気づいてはいないが、その顔は蒼白だった。
「よせ、おい、やめろ……っ」
閻魔は何の躊躇もなしに顔をそこへ降ろしていき、先端を飲み込んでしまった。
あまりの強い刺激に斬鬼は瞬間的に強く息を吸い込んだ。そのせいで、気管が捻れでもしたかのように二、三度激しく咳き込んだ。
明らかに術のせいだとはわかっている。でも口に含まれているそこの熱さは尋常ではなかった。そこを中心に体が溶け出しそうだった。
じゅ、という濡れた音がして閻魔の口が先走りを吸い上げた。
「んん……っ、あ!」
引きつった声を必死に堪えながら斬鬼は首筋を反らせる。
歯を食いしばろうにも、意思とは裏腹に開きっぱなしになる口からは湿った熱い吐息がひっきりなしに漏れる。
そんなものどこで覚えたのかと問いただしたいほどの巧みな舌捌きが、斬鬼を性急に追い立てる。いよいよ思考が危うくなってきた。
何も考えたくない。全て手放してしまいたい。そんな衝動に駆られるほどだ。
形に沿って舐め上げられ、同時に起こる水音に耳が焼けそうである。
快楽という幾千もの黒い手が、斬鬼を地の底へ底へと引きずり込もうとする。それから逃れようと必死に首をねじるばかりである。
閻魔がまた笑った気がした。
軽く歯を立てながら根元から強く吸われ、斬鬼の太ももの内側が痙攣した。
「あ、いや、待っ……ああぁ!」 突然襲い掛かってきた快楽の濁流に飲み込まれ、斬鬼は嬌声を上げながらあっさりと果ててしまった。
全身の力が抜け、強張っていた肩や手首が一挙に床に落ちた。呼吸もままならず、ぜいぜいという掠れた音が喉でしていた。
口の中のものをゆっくりと嚥下する音がする。
「どこから出したの、今の声」
口の端を伝った白いものを拭いながら、閻魔がくつくつと笑う。斬鬼の口が動いた。しかし返事ができない。返事が思いつかない。
目のぎらつきは消え、快楽で染め上げられた濁りだけが残っている。

閻魔は右手を自分の眼前に持ってきた。するとその手全体に、どこから沸いたのか、薄い琥珀色をした蜜のようなものが溢れ出した。
そしてそれをそのまま斬鬼の下肢へ持っていき、人差し指が入り口に触れた。斬鬼の膝ががくりと揺れる。
「大丈夫、痛みはないはずだよ」
赤子をあやすようにそう言うと、ゆっくりと、肉を掻き分けていくようにそれを埋め込んでいった。
「んんぅ……ふ」
先ほどまでの反抗の残る声とは打って変わって、悩ましげな声を出した。
本来なら指先一つ入れるのに奇妙な違和感と痛みを伴うはずだが、蜜の効能も手伝って、あっという間に指の根元まで飲み込んでしまう。
じりじりと中で脈打つので、ひくついているようにも感じ取れた。
さらに中指も追加し、しばらく中でずるずると動かした後、二本の指をくっと曲げた。
「ふぁ!」
尾てい骨から快感がほとばしった。
畳みかけるように指を強引に奥までねじ込む。中の熱さに、自分で術をかけておきながら閻魔は内心驚きつつ楽しんでいた。
中を拡げるように指を広げたり、不規則な動きで抉ってみたり。流れる涙と伝う唾液で斬鬼の頬は水浸しである。
だんだん指の動きが速くなり、それに比例して斬鬼の呼吸も荒くなっていった。
最終的には最奥を爪で突かれ、斬鬼は再び吐精した。褐色の肌の上に白濁が花びらのように舞い散る。その色の対比が何とも言えない禍々しい美しさを放っていた。
「う……」
虚ろな目で小さく唸る。その目にもう抵抗の色は無い。完全に快楽の海に浸かっていた。
ずるりと一気に指を引き抜くと、刺激で先ほど出したものの残りがたらたらと伝った。
「入れてほしい?」
閻魔が問うと、斬鬼は焦点の合わないぼやけた目を閻魔に向けた。下唇が震えている。
「そう」
気まぐれに斬鬼の唇をついばむ。入り込んできた苦い味に眉を寄せる余裕は斬鬼には無い。思考も無い。


「まだ駄目」



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